省エネの教科書とは

サプライチェーン排出量とは?スコープ1,スコープ2,スコープ3の解説

2050年カーボンニュートラル宣言」から、
日本国内にも「CO2削減」の流れが強まっています。

その中で、自社の排出量だけでなくサプライチェーン全体を対象とした

が削減の範囲として着目されています。

さらに「サプライチェーン排出量」は「スコープ1,スコープ2,スコープ3」等の
分類にも分かれています。

本記事では、この「サプライチェーン排出量」について
分類なども含め、分かりやすく解説して行きます。

※「蛍光マーカーが引いてある専門用語」にカーソルを合わせれば解説が表示されます。
省エネにあまり詳しくない方にも分かりやすい記事をお届けするため、
あらゆる専門用語に解説を付けています。どうぞお役立てください。



「サプライチェーン排出量」とは?

図のように「サプライチェーン排出量」とは、

その企業の事業だけでなく、その原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量

のことを言います。

「GHGプロトコルイニシアチブ」による基準

サプライチェーン排出量」は、国際機関「GHGプロトコルイニシアチブ」が策定した基準であり、分類やカテゴリも定義されています。

サプライチェーン排出量の分類

そして「サプライチェーン排出量」は、下記のような内訳で分類されます。

また、下記のようにも分類されます。

2.「サプライチェーン排出量」=「上流」+「自社」+「下流」

一般的には「スコープ」で示されることが多い

特に企業の情報公開においては
上記の「1」で挙げている「スコープ」を用いて示されることが一般的です。

「2」の「上流・自社・下流」という分類は、分類の概念を分かりやすくするために用いられます。

なぜ「サプライヤー排出量」で考える?

「サプライヤー排出量」は「自社排出量」の「4倍」

「CDPサプライチェーン報告書2016|2017」では、
「サプライヤー排出量(取引先等の排出量)」は「自社排出量」の「4倍にのぼる」と報告されています。

CDPサプライチェーン報告書2016|2017

つまり「2050年カーボンニュートラル」を目指す上では、
「自社排出量の削減」だけでは達成が困難であり

「サプライヤー排出量(取引先等の排出量)」を含めた
サプライチェーン排出量」全体に着目し、対策する必要があるのです。

また、自社のCO2削減策をやりつくしている企業も「サプライチェーン排出量」に着目することで、さらに削減できる箇所をみつけることができます。

分類ごとに整理することで、削減すべき箇所が見つかる

温室効果ガスは「さまざまな活動、設備、工程」で発生します。

「どこで排出されているものに対して」
「どんな目標を掲げ」
「どう削減していくのか」

分類やカテゴリを整理することで、優先的に削減すべき対象を特定し
長期的な戦略を導き出して行くことができるようになるのです。

全世界で共通の基準になっている

また「サプライチェーン排出量」は、前述したように国際機関「GHGプロトコルイニシアチブ」で基準が定められており、世界共通の基準になっています。

外部への情報共有にそのまま使用できる

温室効果ガスの排出量は、下記のように外部へ共有する為に使用されます。

1.HP等を通じた公開
2.取引先への情報共有
3.金融機関、投資家への開示
4.国や調査機関への報告

2~4の場合「サプライチェーン排出量」の基準で報告するようになっている為
予め同じ基準で算定しておくと、余計な手間がかかりません。

企業での開示例

それでは、例を挙げて「サプライチェーン排出量」を
企業がどのように分類して開示しているか、例を見てみましょう。

【A社の今年度排出量】
 
スコープ1:10,000 tCO2/年
スコープ2: 5,000 tCO2/年
スコープ3: 3,000 tCO2/年
【A社の削減目標】
 
スコープ1:2030年までに、2020年比で80%削減
スコープ2:2030年までに100%削減
スコープ3:2030年までに、2020年比で50%削減
【A社の目標達成に向けた取り組み】
 
スコープ1:燃料を石油から天然ガスに切り替え
スコープ2自家消費型太陽光発電 の導入
スコープ3:資材をCO2排出の少ないものに変更、
      事業で出る廃棄物をリサイクルで削減

このように「現状の排出量」「削減目標」「目標達成に向けた取り組み」それぞれにおいて
「スコープごと」に分類され、企業HPで公開したり、国や評価機関に報告する為に使用されます。

スコープ毎に目標を立てるメリット

詳しくは後述しますが「スコープ3」は外部取引先との連携が必要となる為
スコープ1」「スコープ2」よりも難易度が高い、または時間がかかることがあります。

そうした際に、目標を分けて設定したり
スコープ1」「スコープ2」から取り組むことを明示することができるのです。

企業の実例

環境省から紹介されている企業の実例でも、上記のような分類で報告され紹介されています。

環境省「サプライチェーン排出量算定事例」

それでは次に「上流、自社、下流」での分類、「スコープ」での分類
それぞれを詳しく解説して行きます。

「上流、自社、下流」での分類

サプライチェーン排出量」は、
図のように「上流」「自社」「下流」に分類することができます。

上流

上流とは、この場合「購入に関するCO2排出量」のことを指します。

自社製品の部品を外部で製造した際、その製造過程で出る排出量や、その輸送での排出など
自社製品やサービスで使用する原材料やサービス

などがこの「上流」に分類されます。

「従業員の通勤」や「出張」も上流に分類される

「従業員の通勤」「出張」は、自社に分類されるように思われがちですが
この「上流」に分類されます。

下流

対して下流は「販売に関するCO2排出量」のことを指します。

自社製品の販売先への輸送での排出や、製品を使用した際の排出など
自社製品を作った先で排出される排出量

などがこの「下流」に分類されます。

グループ企業の「自社」の定義に注意

「自社」で注意が必要なのは、その定義です。

例えばグループ企業内で「上流」「下流」のように取引を行っている場合には、
グループ間でのやり取りは「上流」「下流」に分類されるように誤解されがちですが

サプライチェーン排出量」では「グループ=自社」と考える為、
グループ内でのやり取りは「自社」に分類されます

「スコープ」での分類

さらにこれらは「スコープ1スコープ2スコープ3」に分類されます。
前述のように、企業はこの「スコープでの分類」をベースに目標や削減実績などを公開・報告していくのが一般的です。

図のように、自社での排出内は「スコープ1」「スコープ2」に分類され、
自社以外の「上流や下流」は「スコープ3」に分類されます。

続いて、各スコープの内容について詳しく解説していきます。

スコープ1とは?

始めに、スコープ1 について解説して行きます。

自社で排出しているCO2の内「自社内で直接排出しているもの」が「スコープ1」にあたります。

スコープ1の例

・工業炉から排出される温室効果ガス
・製造設備などにおける燃焼で生まれる温室効果ガス
・ディーゼル発電機から排出される温室効果ガス
・社内の焼却炉から排出される温室効果ガス

等が挙げられます。

燃焼などで自社から直接排出されている温室効果ガス」等が該当します。

電気の使用はどうなる?

ディーゼル発電機のように、
自社で発電してCO2が排出されている場合には スコープ1 に該当しますが、

「社外で発電して購入している電気」は、後述の「スコープ2」に該当します。

スコープ1の削減方法

スコープ1 の排出量を削減する方法としては、

・燃料を電気や都市ガスに切り替える
・各設備の熱排出を再利用する
・各設備の省エネ

などが主な方法として挙げられます。

詳しくは、下記にそれぞれの設備ごとのアプローチを紹介していますので
ご参照ください。

スコープ2とは?

次に、スコープ2 について解説して行きます。

スコープ2は「自社で使用しているエネルギーの間接排出」のことを指します。

エネルギーの間接排出とは?

前述のように「社外で発電して購入している電気」が主になります。

社内で使用している電気は、自社で直接CO2を排出しているわけではありません。

しかし、発電所では火力発電などでCO2を排出しています。

こうして「社内で使用しているエネルギー」でありながら、
実際には「それを創る為に、社外でCO2排出が起こっている」ものが

この「スコープ2」に該当します。

スコープ2に算定しない電気

但し、電気の中でも下記のようなものは「スコープ2」に算定されません。

・ディーゼル発電機のように、自社で発電してCO2を排出している電気→「スコープ1 に該当」
・購入している電気が、100%再エネ由来で発電し、温室効果ガスを排出していない場合
自家消費型太陽光発電 等、自社で再エネで発電した電気

スコープ2の削減方法

この「スコープ2」の削減方法として、有効なのが「再エネの導入」です。

主な手法としては

などが代表的な例として挙げられます。

詳しくは、下記の記事をお読みいただければ幸いです。

スコープ3とは?

ここまでご紹介した、スコープ1 とスコープ2 は、自社内での排出量でした。
スコープ3」は、自社以外の「サプライチェーン」における排出になります。

上流・下流にも分類される

スコープ3 は、最初の図でもご説明したように「上流と下流」にも分類されます。

スコープ3は15のカテゴリに分類される

さらに、この「スコープ3」は、細かく15のカテゴリに分類されます。

スコープ3「15のカテゴリ分類」

それでは、スコープ3 の「15のカテゴリ分類」を見て行きましょう。

カテゴリ1~8が上流」「9~15が下流」に分類されますので、上流下流ごとに確認して行きます。

※スコープ3の各カテゴリの削減方法は、業種や企業によって異なりますので「一例」としてご紹介します。

上流(カテゴリ1~8)

カテゴリ1「購入した製品・サービス」

自社で製造や使用する製品に使用する「原材料・部品・容器・包装・資材」などを、外部で製造するまでに排出される温室効果ガスです。

社内業務を外部委託している場合にも、その作業によって排出されている温室効果ガスもこのカテゴリに該当します。

【例】自動車製造業の場合
 
・自社の製造する自動車で使用する、部品を取引先で製造する際に排出される温室効果ガス
【削減方法の一例】
 
・取引先にも製造時のCO2削減の協力を依頼する。
・CO2排出量の少ない取引先に切り替える。

カテゴリ2「自社の資本財の建設・製造に伴う排出」

生産設備や社屋などの建設において排出される温室効果ガスのことを指します。
複数年に渡って建設・製造されている場合には、終了した年にまとめて計上します。

【例】食品製造業の場合
 
・工場の老朽化に伴い、新たな工場を2年かけて新築。
 完成した年に、建設において排出された温室効果ガスを排出量として計上した。
【削減方法の一例】
 
・CO2を削減した資材(環境配慮コンクリート等)を使用する。
・環境に配慮した資材を使う建設会社に依頼する。

カテゴリ3「スコープ1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動」

自社で使用するエネルギーの燃焼等で排出される温室効果ガスは「スコープ1
電気など、社外で作られたエネルギーは「スコープ2」に分類されますが、

スコープ1」で使用するエネルギーの燃料の
採掘や精製における排出がこのカテゴリに分類されます。

ディーゼル発電機で使用する軽油の採掘や精製もこのカテゴリに分類されます。

【例】鉄鋼業の場合
 
・工業炉の燃料に使用している、石油を採掘・精製する際に排出された温室効果ガスを算定。
【削減方法の一例】
 
・設備を省エネ性能の高いものに買い替える。
・エネルギーを化石燃料から再エネで発電した電気に切り替える。

カテゴリ4「輸送、配送(上流)」

購入した製品の物流・配送における排出はこのカテゴリに分類されます。

【例】自動車製造業の場合
 
・外部取引先で製造した部品を、自社工場に輸送する際に排出される温室効果ガス。
【削減方法の一例】
 
・EVトラック導入率が高い等、環境に配慮した運送会社に切り替える。
・梱包資材を樹脂製で使いまわせるものに切り替える。

カテゴリ5「事業から出る廃棄物」

事業活動の中で発生する廃棄物の自社以外での処理や、輸送における排出量が該当します。
(但し「スコープ3基準及び基本ガイドライン」では、輸送は任意算定対象とされています。)

【例】食品店の場合
 
・賞味期限切れで廃棄する食品などの廃棄物処理、及び処理場への運送における排出を計上。
【削減方法の一例】
 
・廃棄物を バイオマス発電 の燃料に活用する。
・廃棄する資材を別商品などに再利用する。

カテゴリ6「出張」

従業員の出張における排出量が該当します。
前述しましたが、スコープ1 と誤解されがちですので注意が必要です。

【例】商社の場合
 
・全従業員の営業活動で遠隔地への飛行機、車、電車等で移動した際の排出量を算定。
【削減方法の一例】
 
・オンライン商談を推奨する。
・車両を使う頻度を下げ、公共交通機関を使用するように奨励する。

カテゴリ7「雇用者の通勤」

雇用者の通勤における排出も スコープ3 に分類されます。

【例】リサイクル業の場合
 
・全従業員の通勤における、車や公共交通機関利用の排出量を算出。
【削減方法の一例】
 
・テレワークを推奨する。
・車両を使う頻度を下げ、公共交通機関を使用するように奨励する。

カテゴリ8「リース資産(上流)」

自社が賃借している資産での排出が該当します。
(但し、算定・報告・公表制度では、スコープ1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半です。)

【例】ネット通販業の場合
 
・賃借しているオフィスでの排出量。但し、使用している電気などは スコープ2 で別途計上している為、該当なし。
【削減方法の一例】
 
・再エネ由来の電力に切り替えて貰えるように貸主に協力を依頼する。
・環境配慮型オフィスに移転する。

下流(カテゴリ9~15)

対して、自社で製造した製品やサービスを使用するまが該当する「下流」の排出カテゴリです。

カテゴリ9「輸送、配送(下流)」

商品の出荷など、販売先への輸送や、倉庫での保管や小売店での販売における排出が該当します。

【例】ネット通販業の場合
 
・商品を消費者に配送する際の排出量。及び、一部商品を大手通販モールの倉庫内に在庫保管して貰い配送している為、その倉庫の保管における排出量も計上。
【削減方法の一例】
 
・梱包資材にリサイクル可能な資材を活用する。
・環境に配慮した外部倉庫に切り替える。

カテゴリ10「販売した製品の加工」

販売した商品を別の企業などが加工した際の排出量です。

【例】自動車部品製造業の場合
 
・自社で製造した部品を販売している、取引先の自動車製造業において自動車製造における排出量を算定。
【削減方法の一例】
 
・取引先に協力を依頼する。

カテゴリ11「販売した製品の使用」

販売した製品を使用することによる排出量です。

【例】ガスバーナー製造メーカーの場合
 
・自社で製造した、アウトドア用バーナーを消費者が使用した際の温室効果ガス排出量を算定。
【削減方法の一例】
 
・CO2排出量を抑えた商品を開発する。

カテゴリ12「販売した製品の廃棄」

販売した製品を販売先で廃棄した際に出る排出量です。

こちらも上流同様、輸送と処理が含まれますが「スコープ3基準及び基本ガイドライン」では、輸送は算定対象外になっています。

【例】飲料メーカーの場合
 
・自社で製造した飲料を消費者が飲んだ後の容器の廃棄、及び廃棄業者の輸送における排出量。
【削減方法の一例】
 
・廃棄時にコンパクトになるように容器を改良し、運送費を抑える。
・リサイクル可能な資材を活用し、販売先にもリサイクルを啓蒙する。

カテゴリ13「リース資産(下流)」

自社が賃貸業者として所有しており、他社に賃貸している資産における排出量です。

【例】不動産業の場合
 
・自社で所有しているオフィスビルに入居している事業者の排出量。
【削減方法の一例】
 
自家消費型太陽光発電 導入や 再エネ由来の電力への切り替え を行う。

カテゴリ14「フランチャイズ」

自社主宰のフランチャイズへの加盟社における「スコープ1」「スコープ2」の排出量です。

【例】コンビニエンスストアチェーンの場合
 
・自社のフランチャイズに加盟している全店舗の「スコープ1」「スコープ2」の排出量。
【削減方法の一例】
 
自家消費型太陽光発電 導入や 再エネ由来の電力への切り替え を行う。

カテゴリ15「投資」

株式投資などの場合、投資先の1株当たりの排出原単価から、投資額に応じた排出量を算定します。

【例】グループ企業の場合
 
・グループ企業の株を所有しており、その投資額に応じた排出量を算定。
【削減方法の一例】
 
・環境に配慮した投資先に切り替える。
・環境に配慮するように協力を依頼する。

その他(任意)

任意にはなりますが、従業員や消費者の日常生活における排出を算定し、提出することができます。

どこまで算定する?

これら全てを取引先に確認しなければならないのか?

こうして多くの項目を見ると

「全てを取引先に確認しなければならないのか?」

と思ってしまいがちですが、簡易的な算定方法もあります。

簡易的な算定方法とは?

商品の調達量や金額をベースとして、そのカテゴリに合った「原単位」を掛け合わせることで
取引先に細かく確認せずに排出量を算出することもできます。

勿論、簡易的な算定方法では不十分になるカテゴリもありますが

まずこの方法で算定を始めてみることもできます。

実際の算定方法については、別記事でまた詳しく解説いたします。

すべてのカテゴリを算定する必要がある?

上記のカテゴリの中には、企業によっては該当しないものもあります。

例えば「カテゴリ14:フランチャイズ」等が良い例ですが、
フランチャイズを行っていない企業では該当しないカテゴリです。

どのカテゴリをどう算定するか

これは業種などによっても大きく異なって来ます。

どのカテゴリを算定するかは、環境省が発表している「算定事例」から
御社に合った業種や規模の企業の事例を参考にすると分かりやすいと思います。

環境省「サプライチェーン排出量算定事例」

まとめ

いかがでしたでしょうか?

サプライチェーン排出量 は「上流、自社、下流」に分類できる。
サプライチェーン排出量 は「スコープ1スコープ2スコープ3」に分類できる。
スコープ3 はさらに「15のカテゴリ」に分類できる。

サプライチェーン排出量」について、
その分類や各カテゴリがどんなものを指すのか?
お分かり頂けたのではないかと思います。

次に、別記事で「CO2排出量の算定方法」を解説して行きます。
そちらも併せて、御社の排出量の算定方法にお役立て頂ければ幸いです。