※2024年10月17日 最新情報に更新しました。
近年の「エネルギー問題」において
「電気料金の高騰」や「CO2削減」は、企業にとって重要な課題です。
その解決策のひとつとして注目されている「エネルギーマネジメントシステム」は、
「電気料金削減」だけでなく「CO2排出量の算定」においても、
2024年現在、非常に重要なツールになってきています。
本記事では、
と題して、冒頭で簡単に解説しつつ、より詳しく知りたい方のために
などについても、続けて詳しく解説していきます。
みなさまの必要な情報に合わせて、本記事をお役立て頂けますと幸いです。
本記事を読んで頂ければ、エネルギーマネジメントシステムに関する知識は
ひととおりご理解いただけるようになるかと思いますので、ぜひご活用ください。
目次
エネルギーマネジメントシステムとは、
エネルギーの使用状況をデータとして「見える化」し、
空調や照明、製造機器などを制御してエネルギー使用を最適化するシステムです。
「Energy Management System」の頭文字を取って「EMS」や、略して「エネマネ」と呼ばれることもあります。
「エネルギーマネジメント」との違いは、システムの部分に特化したより具体的な手段のことを意味します。
続いて、メリット・デメリットからより詳しく内容を確認していきましょう。
社内などで使用されるエネルギーが、どんな機器で、いつ、どれくらい使用されているのか
などを、データ化して把握することができます。
これにより、エネルギーが無駄に使用されている箇所や老朽化している箇所を特定して改善したり、
省エネとして行った施策の効果をデータで検証することが可能になります。
エネルギーの使用状況をデータ化することによって、CO2の排出量も算定できます。
また、製品によっては、空調や照明や設備機器などを自動制御して
エネルギーの無駄遣いを防いでくれるものもあります。
つまり、省エネを行うための情報収集が主になるシステムです。
まず、どこを改善すべきかを把握して取り組んだほうが、
より効果的に省エネ施策を行うことができます。
エネルギーマネジメントシステムは、
省エネ活動の土台となる重要な役割をになっていると言えます。
反対に、注意点(デメリット)も確認しておきましょう。
エネルギーマネジメントシステムの導入には、初期費用がかかります。
(規模や業種によって費用は大きく異なります)
ただし、補助金制度も活用することで、負担を軽減することが出来ます。
古い生産設備など、設備によっては、エネルギーマネジメントシステムによるデータ取得ができないものもあります。
また、運用には分析や改善箇所の抽出などの専門知識が必要な点にも注意が必要です。
ここまでで、簡単にエネルギーマネジメントシステムについてご理解頂けたかと思います。
ここからは、背景などより詳しく知りたい方向けに解説していますので、
ぜひ続けてご覧ください。
エネルギーマネジメントシステムについて、おおよそご理解いただいたうえで
より詳しく知りたい方向けに「注目されるようになった背景」から解説していきます。
エネルギーマネジメントシステムがより注目されるようになったのは、
主に下記3つの理由が要因です。
順番に解説して行きます。
まずひとつめの背景が「電気料金の高騰」です。
上のグラフは、最新の電気料金の推移です。
ウクライナ情勢をきっかけに、天然ガスなどの化石燃料が高騰し、
電気料金が大きく値上がりしています。
この高騰は、少なくとも2025年ころまで続くと考えられています。
こうした背景から、省エネの必要性が高まっており、
その土台として重要な、エネルギーマネジメントシステムへの注目も高まっているのです。
「電気料金の値上り」については、下記の記事でより詳しく解説しています。
気になる方はご参照ください。
2つめの背景が「CO2削減」です。
特に「CO2削減」においては、エネルギーマネジメントシステムの必要性が非常に高くなっています。
近年、急速に進む「地球温暖化」への対応策として、
国際社会において「CO2削減」が叫ばれてきました。
その影響もあり、日本においても2020年に「カーボンニュートラル宣言」が宣言され、
「CO2削減」の流れが強まってきました。
こうして、企業にも「CO2削減」が求められるようになってきたのですが、
その中で「サプライチェーン排出量」の削減が求められるようになります。
「サプライチェーン排出量」とは、図のように
のことを言います。
この「サプライチェーン排出量」の削減が重要視され、
大手企業を中心に削減策に力を入れ始めたのです。
「サプライチェーン排出量」における「CO2削減」が、大手企業を中心に行われるようになることで
その取引先にも「CO2削減」や「CO2排出量の算定」が求められるようになりました。
こうした背景もあり、「CO2排出量算定」を行うために
エネルギーマネジメントシステムの必要性が高まっているのです。
「1.電気料金の高騰」でも少し触れたように、
現在の電気料金の高騰は「国際情勢の影響」を大きく受けています。
日本の電源構成の70%が「天然ガスや石炭を燃料にした火力発電」であり、
その燃料の大半は輸入に頼っているのが現状です。
このように、エネルギーの安定供給を目指し、国際社会の影響を少なくしていくことが
「エネルギーの安全保障」として重要視されています。
その中で、再エネなどの国産エネルギーの増加だけでなく、
限られたエネルギーを効率的に使用するための「エネルギーマネジメントシステム」の重要性も注目されています。
続いて、エネルギーマネジメントシステム(EMS)が今後どれだけ重要視されていくのか?
国内の市場規模の今後の展望を見て行きましょう。
下のグラフは、2024年2月に発表された、富士経済によるEMS関連市場の現状と今後の予測です。
出典:富士経済グループ「EMS(エネルギーマネジメントシステム)関連の国内市場を調査」を元に作成
図のように、EMSの市場は2022年度の時点で「約1.3兆円」に達しており、今後も成長する見通しです。2035年度には「約2.7兆円」になる見通しで、現在の倍の規模になる予測になっています。
これは、前述のように「サプライチェーン排出量」算定の必要性などから、
その後の省エネのための改善活動など、
エネルギーマネジメントシステムが世の中により必要になって来る可能性が高いことから
このような見通しになっています。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、
ビル、住宅、工場など、導入する施設によってさまざまな種類に分類されます。
貴社の設備には、どのようなEMSが該当するのか確認しておきましょう。
それぞれの特徴や市場規模について解説して行きます。
オフィスビルや商業ビル向けのエネルギーマネジメントシステムは、
「Building Energy Management System」の頭文字を取って「BEMS(ベムス)」と呼ばれます。
BEMSは、ビルのエネルギーが対象範囲になりますので、
主に以下の箇所で使用されるエネルギーを、見える化・制御するシステムになります。
また BEMSは、以下の2種類にも分類されます。
大規模なビルでは、「BAS(ビル中央監視制御システム)」が導入されていることがあります。
この「BAS」は「Building Automation System」の略で、
エネルギーマネジメントシステムに加えて、
防犯や防災などの設備も管理、制御するシステムになっています。
つまり「BAS」を導入した際にも「BEMS(ベムス)」の機能を含んでいますので、
BASを導入すれば「BEMS(ベムス)」を導入することにもなります。
対して、エネルギーマネジメントシステムに特化しているのが
「エネルギー監視特化型システム」です。
こちらは、小中規模ビルで導入されることが多い傾向があります。
日本政府は、前述の「2050年カーボンニュートラル」の一環として
「2030年までに、新築ビルの平均で ZEB(ゼブ)を実現する」ことを目標に置いています。
※ZEB・・・CO2排出量を抑える、再エネを導入する、などの施策を通じて実現する「CO2排出量が実質ゼロ」のビル
この「ZEB の実現」のためにも、BEMS(ベムス)は非常に重要になってきます。
そうした背景を受けて、BEMS(ベムス)の市場規模は今後も伸びて行く見通しです。
出典:富士経済グループ「EMS(エネルギーマネジメントシステム)関連の国内市場を調査」を元に作成
BASの市場規模は現状でも大きいのですが、中小規模を中心に「エネルギー監視特化型システム」が今後大きく伸びる可能性が高いと見られています。
また、BEMS(ベムス)はさまざまな種類のエネルギーマネジメントシステムの中でも、
最も市場規模が大きいことも特徴です。
住宅向けのエネルギーマネジメントシステム(EMS)は、
「Home Energy Management System」の頭文字を取って「HEMS(ヘムス)」と呼ばれます。
BEMS(ベムス)の項でご紹介した「ZEB(ゼブ)」と同様に、
政府は住宅においても「ZEH(ゼッチ)」の推進にも力を入れており、
2030年以降に新築される住宅については、ZEH(ゼッチ)基準を平準化する
ことを目標にしています。
※ZEH・・・CO2排出量を抑える、再エネを導入する、などの施策を通じて実現する「CO2排出量が実質ゼロ」の住宅。
この「ZEH(ゼッチ)」の実現のためにも、エネルギーマネジメントシステムの導入が重要であり、
「HEMS(ヘムス)」の重要性が高まっています。
出典:富士経済グループ「EMS(エネルギーマネジメントシステム)関連の国内市場を調査」を元に作成
「HEMS(ヘムス)」の市場規模の見通しも、今後大きく伸びる見通しになっています。
工場におけるエネルギーマネジメントシステムは、
「Factory Energy Management System」の頭文字を取って「FEMS(フェムス)」と呼ばれます。
FEMS(フェムス)では、下記のような BEMS(ビルのEMS)の適用範囲だった箇所に加え、
下記のような「生産設備」のエネルギーも適用範囲になります。
「原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する事業者」は、
省エネ法に定められた内容に基づいて、定期的にエネルギーの使用状況を報告する必要があります。
平成21年度の改正により、省エネ法の項目の中にも新たに、
「エネルギーマネジメントシステム」に関する記述が追加されています。
参照:資源エネルギー庁「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」
※記述はFEMS(フェムス)ではなく、BEMS(ベムス)になっています。
また、エネルギーマネジメントシステムに関するISO規格「ISO50001」を取得することで
取り引きにより大きな信頼を得られます。
「ISO50001」は、前述の省エネ法の中でも推奨されています。
参照:資源エネルギー庁「ISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)」
FEMS(フェムス)の市場規模の見通しは、下記のようになります。
(前述のBEMSやHEMSとは年が異なり、少し古いデータを参照しています)
出典:富士経済グループ「EMSと関連機器・サービスの国内市場を調査」を元に作成
地域全体のエネルギーを管理し、コントロールするエネルギーマネジメントシステム(EMS)は、
「Community Energy Management System」の頭文字を取って「CEMS(セムス)」と呼ばれます。
地域内にある BEMS HEMS FEMS を包括して、地域内のエネルギー使用を最適化します。
「スマートシティ」「スマートグリッド」などの取組みにおいては、
欠かせないシステムになります。
出典:富士経済グループ「EMS(エネルギーマネジメントシステム)関連の国内市場を調査」を元に作成
CEMS(セムス)は、これまでご紹介したさまざまなEMSの中では市場規模は小さいのですが、
2035年の見通しにおいては、大きく成長する見通しのある市場であるとも言えます。
マンションの建物内のエネルギーマネジメントシステム(EMS)は、
「Mansion Energy Management System」の頭文字を取って「MEMS(メムス)」と呼ばれます。
マンションの電力は、個別の契約者ごとに電力契約をするのが一般的です。
しかし、「MEMS(メムス)」を導入しているマンションはスマートマンションと呼ばれ、
全入居者が一括で電力会社と契約します。
MEMSは、マンション全体の電力を一括でコントロールすることで、
省エネ効果を高めることができます。
MEMS(メムス)は、スマートマンション導入加速化推進事業として、
経済産業省手動で、導入を支援しています。
より詳しく知りたい方は、以下からご確認ください。
出典:経済産業省「スマートマンションの推進」
続いて、エネルギーマネジメントシステム(EMS)導入に活用できる、本年度の補助金制度をご紹介します。
「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」は、工場や事業所における
電化や脱炭素を目的とした、設備導入や更新費用の一部を支援する、補助金制度です。
いくつかある分類の中でも「(Ⅳ)エネルギー需要最適化型」が、エネルギーマネジメントシステム導入を補助の対象にしています。
「エネルギーマネジメントシステム機器の導入」に対する補助金制度です。
ただし「制御効果」と「省エネ診断等による運用改善効果」により、
原油換算量ベースで「省エネルギー率2%以上」を満たす事業であることが条件になっています。
「設計費・設備費・工事費」が対象になります。
補助率は、企業の規模によって異なります。
中小企業等:1/2以内
大企業・その他:1/3以内
また、補助限度額には上限も下限も設けられています。
【上限額】1億円/事業全体
【下限額】100万円/事業全体
※複数年度事業の1事業あたりの上限は1億円
現在、4次公募が行われています。
4次公募期間:
【単年度事業】
2024年9月13日(金)~2024年10月31日(木)
【複数年度事業】
2024年9月13日(金)~2025年1月14日(火)
「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」について、
詳しくは下記リンク先をご参照ください。
一般社団法人 環境共創イニシアチブ「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」
ここからは、実際のエネルギーマネジメントシステムの導入事例をご紹介します。
高知県須崎市の須崎市立市民文化会館では、平成30年度に「須崎市地球温暖化対策実行計画に基づく省エネ設備等導入事業」として、BEMSを導入しています。
更新前4.7t- CO2/年 ⇒ 更新後3.8t- CO2/年
削減率19.1%を見込んでいます。
一般財団法人 環境イノベーション情報機構「省エネルギー設備導入事例」
契約電力超過による契約電力上昇の回避と消費電力量の削減を目的に、
BEMSを導入しました。
初期コストを3.5年で回収できる見込と、投資回収までの期間が短く、
実行に移しやすい施策であることがわかります。
出光興産株式会社「導入事例株式会社 文明堂東京 浦和工場様」
フクシマトレーディング(株)が実施した株式会社コノミヤ 浜寺石津店の事例では、
2014年に店舗改装の際に、設備の入れ替えに合わせてEMSを導入しています。
エネルギー使用量の推移分析が出来るようになり、
空調と冷凍冷蔵設備の電気使用量が大きい傾向を特定しています。
原因を特定し、対策を実施することで年間電気使用量の削減を実現しています。
対策の実施により、年間28.7%と大きな削減に繋がっています。
導入前 1,129,254kWh → 導入後 804,715kWh
削減量 324,539kWh(28.7%削減)
ここまでひと通り、エネルギーマネジメントシステムの種類や補助金までご紹介してきましたが
続いて、気になるのが
という点になってくるかと思います。
そこで「EMS事業者」を探す際に便利なのが、
「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」が提供している「エネマネ事業者検索」です。
実際のサービス検索画面が以下です。
画像からもわかる通り、たった5項目を選ぶだけで、
最適な事業者を検索することができます。
「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」は、前述の補助金制度の公募を行っている事業者です。
EMS事業者を探す際に便利です。
いかがでししたでしょうか?
エネルギーマネジメントシステムについて、特徴や種類、補助金など
基本的な情報をひととおりご理解頂けたのではないかと思います。
この記事が、貴社のエネルギーマネジメントシステム導入の判断の
お役に立てますと幸いです。