※2023年6月6日:2023年の最新情報・最新の補助金情報に更新しました。
GHP(ガスヒートポンプ)は、ガスエンジンで稼働する空調機器です。
すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、
「災害に強い」ことからも注目を集めています。
しかしながら、メリットだけでなくデメリットもあります。
近年の天然ガスの価格高騰も考えておかなければならない問題です。
令和5年度は「税制優遇」や「補助金」を受けることもできます。
この記事では、GHP(ガスヒートポンプ)の基礎知識から、
メリット・デメリット、税制優遇や補助金までわかりやすく解説して行きます。
ぜひ御社の BCP対策 にお役立てください。
目次
それではまず最初に、GHP(ガスヒートポンプ)の基礎について確認して行きましょう。
GHP(ガスヒートポンプ)は「ガスヒートポンプ」の他にも、
「ガスヒートポンプエアコン」「ガスヒーポン」などと呼ばれることがあります。
これらは全て GHP(ガスヒートポンプ)のことを指しています。
GHP(ガスヒートポンプ)とは、簡単に言ってしまうと「ガスエンジンで稼働する空調」のことです。
電気で稼働する空調(EHP と呼ばれます)との違いは、エアコンの コンプレッサ を
「電気モーター」ではなく「ガスエンジン」で動かしているという点だけです。
細かな仕組みまで理解しなくても、ここさえ抑えておけば大丈夫です。
空調のコンプレッサは、冷媒を空調機に送り出す役割を担っています。
GHP では、コンプレッサ はガスエンジンで稼働しますが、ファン等は EHP(電気で動く空調) 同様に電気で稼働します。
コンプレッサ は空調機器の中で最も使用エネルギーが大きな機器になりますので、
EHP(電気で稼働する空調) に比べて、消費電力を大きく削減できます。
GHP(ガスヒートポンプ)は、LPガス や都市ガスで使用される 13A を燃料にしています。
(この記事では LPガス を燃料にしたGHPをご紹介します)
LPガス の特徴については次の項で解説していきます。
LPガス とは「都市ガス」のように「ガス管を使って供給されるガス」ではなく、
写真のような「ガスシリンダー(ガスボンベとも言います)」や「バルク貯槽」で施設のそばに保管し、ガス機器に供給するガスです。
LPガスシリンダー
バルク貯槽
※近距離ですが、少し離れた場所から供給される LPガス もあります。
企業に設置する場合には、施設のそばに設置するのが一般的です。
この LPガス は「災害に強い」点が大きな特徴のひとつです。
前述のように、LPガス はガス会社からガス管を通じて供給されるわけではなく、
施設内で貯蔵しておくことができます。
都市ガスや電気のように、自然災害でガス管や電線が被害を受けて止まることが無い為、
「災害に強い燃料」と言えます。
ディーゼル発電機などに使用される燃料の「軽油」などは、6か月ほどの保管期間になっていますが、
LPガス は一般的には劣化はしないと言われています。
燃料が劣化して使えなくなるリスクが少ないことも、大きなメリットのひとつです。
さらに「供給の途絶」が少ないことも、災害に強い大きな要因です。
一般社団法人LPガス協会によると、下記のような大規模災害時にも
「供給途絶」や「二次災害」が起こっていません。
出典:一般社団法人全国LPガス協会「LPガス業界における大規模災害の取組について」
LPガス の2つ目の特徴は「環境にやさしい」点です。
LPガス は、石油や石炭などに比べて「CO2排出量が少ない」特徴があります。
また、酸性雨の原因となるSOX(硫黄酸化物)の排出もほとんどありません。
電気の場合、発電所から使用する施設に届くまでに、発電ロスや送電ロスが発生します。
この為、実際に電気を使う施設に届くのは「発電所で作られた電気の37%」しかありません。
しかし LPガス においては、ロスは生じずに100%供給されるため、
ほとんど無駄がありません。
また、2023年現在「LPガス」に関して、抑えておかなければならないのが
です。
近年の天然ガスの価格推移を見て行くと、下グラフのようになっています。
出典:一般社団法人エネルギ―情報センター「天然ガス価格の推移」
一時は、高騰前に比べて3倍近くの価格になっていましたが、
2022年10月頃から、少しずつ値下がりの傾向を見せています。
ただし、天然ガスだけでなく電気料金も値上がりしています。
出典:東京電力エナジーパートナー「燃料費調整単価一覧表(高圧・特別高圧)」
上のグラフは、電気料金の推移を示す指標である、燃料調整額(東京電力/高圧)の推移ですが
天然ガスと同様に高騰を続けていましたが、2023年から少しずつ値下がりを見せています。
こうした価格変動からも「GHPとEHPのどちらを選ぶか」動向を見ながら検討していく必要があります。
LPガス の特徴をお分かり頂けたところで、
GHP(ガスヒートポンプ)の3つのメリットをご紹介いたします。
GHP(ガスヒートポンプ)は「停電時にも空調を動かすことができる」ことが大きな特徴のひとつです。
近年は地震だけでなく、特に夏季には集中豪雨や台風などにより、2~3週間に及ぶ大型停電が頻発しています。
名称 | 災害分類 | 発生 | 停電期間 | 被害総額 |
2024年の能登半島地震 | 地震(震度7) | 2024年1月1日 | ※現在も復旧作業中 | 不明 |
2022年の福島県沖地震 | 地震(震度6強) | 2022年3月16日 | 約1日 | 625億円以上 |
2021年の福島県沖地震 | 地震(震度6強) | 2021年2月13日 | 6時間 | 不明 |
令和2年7月豪雨 | 豪雨 | 2020年7月3日 | 5日 | 1900億円 |
令和元年台風第19号 | 台風 | 2019年10月6日 | 約2週間 | 3961億円 |
令和元年台風第15号 | 台風 | 2019年9月5日 | 約3週間 | 505億円 |
令和元年8月の前線に伴う大雨 | 豪雨 | 2019年8月27日 | 最大15時間 | 213.5億円 |
北海道胆振東部地震 | 地震(震度7) | 2018年9月6日 | 約1週間 | 1620億円 |
西日本豪雨 | 豪雨 | 2018年6月28日 | 約1週間 | 約1兆2150億円 |
大阪北部地震 | 地震(震度6弱) | 2018年6月18日 | 3時間 | 約1800億円 |
鳥取地震 | 地震(震度6弱) | 2016年10月21日 | 1日 | 1億6,000万円(当時) |
熊本地震 | 地震(震度7) | 2016年4月14日 | 約1週間 | 最大4.6兆円 |
東日本大震災 | 地震(震度7) | 2011年3月11日 | 約1週間 | 約16兆9000億円 |
さらに近年の猛暑と重なり、停電による空調停止で死亡者も出ています。
千葉県は13日、君津市の特別養護老人ホーム「夢の郷」(定員80人)に入所していた
82歳の女性が12日朝、搬送先の病院で死亡したと発表した。
熱中症の疑いがあるという。死亡時、施設は台風15号の影響で停電しており、冷房などが使えない状態だった。
近年の BCP対策 では「災害時の空調維持」が「生命に関わる問題」になっています。
とはいえ、災害用の非常用電源で空調を維持する為には、膨大な費用がかかる為、
従来の非常用電源での対応は困難です。
しかし、LPガス を燃料にした GHP(ガスヒートポンプ)の場合、
自然災害で電気やガスが止まっても、燃料である LPガス は施設内に備蓄してある為、
燃料の供給が途絶えることはありません。
さらに、備蓄している燃料を使い切った場合にも、
供給の途絶が少ないため、電気やガスの復旧を待たずに供給を受けることができる可能性は高くなります。
こちらは LPガス の項でも解説しましたが、
GHP で使用する LPガス はCO2排出量も少なく、酸性雨の原因となるSOX(硫黄酸化物)の排出もほとんどありません。
GHP のメリットのひとつとして「暖房の立ち上がりが早い」点も大きな特徴です。
エンジンの廃熱も利用できるため、EHP(電気を使用した空調)よりも暖房の立ち上がりが早く、外気温が低いときでも高い暖房能力を実現できます。
とはいえ、GHP(ガスヒートポンプ)にはメリットだけがあるわけではありません。
デメリットもあります。
GHP は、EHP(電気による空調)以上にメンテナンスが必要になります。
GHP(ガスヒートポンプ)は、ガスでエンジンを稼働しています。
つまり自動車のエンジンと同じように、定期的なメンテナンスが必要になるのです。
定期点検の頻度は、ほとんどの機種で「5年に一度」の頻度が必要とされています。
正確には「5年または10,000時間の運転」を越えた時にはメンテナンスが必要になります。
分かりやすく自動車を例にして例えると、時速40km/hで40万km(地球10周分)走るほどの運転量が10,000時間の運転に相当します。
メンテナンスは、メーカーが行ってくれるのが一般的で、年一回の保守点検契約になることが多いです。
メーカーにもよりますが、15年までの契約で、以後は買い替えか、他の保守メンテナンス会社を探す必要が出て来る場合もあります。
保守/メンテナンス会社をどう選ぶかも導入時に考えておくべき注意点です。
EHP よりも広い設置スペースが必要になる点もデメリットのひとつです。
続いてのデメリットは「導入コストが高い」点です。
コストの削減効果も高い GHP ですが、本体価格は EHP より高くなってしまいます。
本体価格では EHP の方が安いケースが一般的ですが、
EHP は場合によっては、受電設備にも大きな改修が必要な場合があります。
その際には、EHP の導入コストの方が高くなるケースもあります。
次の項で詳しく解説しますが、GHP には「税制優遇」や「補助金」を活用できます。
こちらの効果も併せて検証すると良いでしょう。
GHP 導入でよく見極めるべきなのは「費用対効果」と「回収期間」が見合うかどうかです。
販売店に見積りを出しながら、以下の点を元に検討すると良いでしょう。
GHP の導入には、国からの補助として「税制優遇」や「補助金」が活用できます。
GHP 導入で受けることができる税制優遇が「中小企業経営強化税制」です。
該当する業種、設備について「即時償却」または「最大10%の税額控除」を受けることができます。
通常、耐用年数に合わせて毎年「減価償却」すべきところを
「即時償却」で初年度にまとめて償却することができます。
このことにより、初年度の節税ができます。
2025年3月31日(令和7年)までとなっています。
但し、この期日は「申請」ではなく「認定」までの期日となっていますので、注意が必要です。
中小企業経営強化税制については、下記記事に該当条件などを詳しく解説しています。
よろしければご参照ください。
LPガス 設備を対象として「LPガス災害バルク等の導入補助金」を受けることができます。
2023年6月05日現在は「令和5年度予算」の公募になりますので、その内容をご紹介いたします。
※GHP に関連する箇所のみ抜粋します。
災害時に、医療施設や福祉施設、避難所などのライフライン機能維持を推進する為。
つまり災害時の LPガス 活用を目的とした補助金になっています。
対象となる施設は以下の通りです。
医療施設や福祉施設はこちらに該当します。
自治体庁舎、公立学校、公民館、体育館など
商業施設、宿泊施設、事務所、工場等のうち
地方自治体が避難所として活用できるよう認知されている施設。
シリンダー容器は導入は必須になっていませんが、
補助の対象になっています。
電気・ガス・水道が止まった際に、容器の上限量50%で災害時に3~7日間対応可能になることが必須条件です。
LPガス災害バルク等の機器購入費と機器の設置工事費
(常時使用の配管・電気配管部分は対象外になります)
医療施設や福祉施設が該当します。
中小企業が運営する場合には2/3以内、それ以外の場合には1/2以内の補助率で
上限金額は1,000万円となります。
公的避難所の場合には、補助率1/2以内で上限金額は3,000万円となります。
一時避難所に該当する民間施設の場合には、補助率1/2以内で上限金額は5,000万円となります。
令和5年5月31日(水)~令和5年6月30日(金)
上記期間以降も、募集が追加される可能性があります。
詳しくは下記リンクより、追加の募集等ご確認ください。
GHP は、特に下記のような施設におすすめです。
前述の通り、災害による停電時には空調の停止で死亡者が出ています。
特に病院や介護施設で高齢者の方が亡くなるケースが多くなっています。
GHP の導入で災害時の空調維持が特に必要となるのが、医療施設と介護施設です。
学校や公共施設は、大規模災害においては「避難所」として利用されることがあります。
被災者の熱中症対策として、停電時の空調維持にGHPは活用できます。
いかがでしたでしょうか?
GHP(ガスヒートポンプ)について、
特徴やメリット・デメリットなどご理解頂けたのではないかと思います。
GHP は災害に強い点が特に大きな特徴です。
補助金の活用や、現在の受電設備をうまく活用することで
導入の費用対効果が EHP を上回る可能性もあります。
本記事が、御社のBCP対策のお役に立てますと幸いです。